軽い革鎧と動きやすいパンツルック。そして弓から、少女が狩人であることがわかった。
「はぁ……はぁ……な、なんなの、いったい……!」
心の叫びが思わず声になる。それほど、少女の心は焦って乱れていた。
がさがさと茂みを掻き分け、地を蹴る音が近づいてくる。
「わ……っ!?」
山歩きに慣れたはずの少女の足が、獣道に穿たれていた穴に嵌ってしまった。
焦りが産んだ些細なミス。しかし今は、それが命取りとも思えてしまう。
「がう……がうっ」
「うっ……!」
生気に欠ける唸り声と、鼻を刺す腐臭が追いついてきて、少女に飛び掛ってきた。
「ひあっ……わああぁぁっ!!」
少女は弓を手にしていても無駄だと悟り、無我夢中で腰に佩いた短剣を突き出した。
獣の牙が少女の腕を砕くのと、短剣が獣を貫いたのは同時だった。
* * *
「下水道のネズミ退治かー……わざわざ冒険者に頼むことかなコレ」
「ネズミといっても、1mほどの巨大種ですよ。外に出てきて悪さをするなら、退治するのもやぶさかではありませんが……」
「にゃー」
冒険者の王国トアル。
同名を冠するその王都の一角、冒険者の店「星屑の大河」亭。グラスランナーの夫妻が経営するその店に、3人の少女が集まっていた。
壁に張り出された依頼書の内容に難色を示す、鎧とコートとパンツを渋いワインレッドで統一した銀髪の娘。
やぶさかではないといいつつも、あまり乗り気でない雰囲気を言葉の端に滲ませている、青みがかったおかっぱ頭に白い神官服を着た少女。
そして、果たして興味があるのかないのか、気だるげに鳴き声を上げている、黒髪から黒い猫耳を覗かせた獣人の少女。
それぞれ、外見のタイプはばらばらだが、彼女たちは共通して、冒険者と呼ばれる存在である。
「……おっと、そういやダンナがいないんだったわね。あたしちょっとお化粧直し☆」
ポンと手を打ち、銀髪の娘がそそくさとトイレへ向かう。
仲間である二人の少女は、特に疑う様子もなくそれを見送り、ほかにめぼしい依頼がないものか、壁に視線をめぐらせる。
しかし、ほんの数分の後、こっそりと娘が戻ってくる。
そのまま2階へ向かおうとしていたが、不幸にもその姿は、階段を上りきる前に神官服の少女の目に留まったしまった。
「シェリーさん! いったい何を持ってるんですか!」
「ぎくっ! みゅ、みゅー! あんたいつも余計なところでカンがいいんだから……」
シェリーと呼ばれた銀髪の娘は、露骨に声を上げてびくりと体を震わせた。
その拍子に、抱えていたものが階段を転がり落ちる。慌てて手を伸ばすが、その手は空を切った。
「みゅー」という愛称で呼ばれたミューリアの足元に転がってきたのは、トイレットペーパーだ。
「やっぱり……この前のときも……あれもシェリーさんの仕業ですね!」
「い、いっこだけ、いっこだけよ! じゃなくて、いいがかりよっ!」
シェリーはだだだっと階段を降り、紙を拾ってコートの中に隠してしまう。いいがかりもクソもないが、これだけ堂々としていては逆に何もいえなくなってしまった。
「………」
たかがトイレットペーパーで、と思うかもしれないが、肌触りがよくコンパクトに巻いておけるこの紙は、貴重品である。
神聖王国ローライトのパピルスの森に群生する植物から得られる繊維からなるトイレ用の紙は、物書きに使われている羊皮紙とは違い、実に滑らかである。
もっとも、その分原材料がほぼ現地にしかない、製造に手間がかかるなどの理由から、羊皮紙に比べてその値段は倍近い。
貧乏人にとっては、たかだかトイレの紙に無駄な金は使いたくないというのも本音だろう。
「……オイオイ、やけに騒がしいと思ったらまたお前さんたちか」
その折、店の奥に通じる廊下から、小さな人影がため息と共にやってきた。
草原の妖精グラスランナーであり、この店の主人であるスタークだ。まるで子供のような外見だが、グラスランナーは成人しても人間の子供くらいの身長にしかならない。
「ちょっとおなかの調子が悪くて、トイレの紙全部使っちゃったのよー。それで、後の人が困るって、ひと悶着」
「しぇ、シェリーさん!」
気だるそうな表情を即座に作って、おなかを摩りながら平然と嘘をつくシェリーに、みゅーの顔が真っ赤になる。みゅーの胸元でゆれている聖印、そして帽子に刻まれたそれは、至高神ファリスのものである。
ファリスは、嘘を良しとしない。
「そうかそうか、紙がね。わかった、ファーナに補充しといてもらおう」
しかし、スタークは気にした様子もなく、にんまりと笑って妻のファーナをトイレに向かわせた。
そして、
「だがなんだ、ハラの調子がおかしいようじゃ、依頼って場合でもないよな。ほかの連中に話してみるとするか」
心なしか意地の悪い笑みを浮かべて、くるりときびすを返す。
「て、ちょちょちょちょっと! 話だけでも聞かせてよっ」
慌ててスタークに追いすがるシェリーだったが、スタークはそれさえお見通しの笑顔で手を突き出した。
「情報量はさっきかっぱらった紙な」
「……うえー。お見通しかー。ハイハイ……」
シェリーはあっさりと観念して、コートに隠した紙をスタークに返した。
「まったく! どろぼーですよ、どろぼーっ!」
ぷんぷんと顔から蒸気を上げそうな勢いで、呆れて声も出なかったみゅーがようやく抗議の声を絞り出した。
「だからあたしはどろぼーなんだって」
自称するとおり、シェリーはシーフである。もちろん冒険者として身を立てている以上、その技術の大半は冒険で使われることになる。
だが、物心ついてから盗賊ギルドの世話になっている彼女は、心の隋からドロボウ根性が染み付いているようだった。
「だからといってお世話になっているお店から紙を盗もうだなんて……くどくどくどくど」
果たして誰も聞いていないのを知ってかしらずか、くどくどと説教をたれるみゅー。
ファリス神官である彼女とシーフであるシェリーは普通なら相容れないが、なぜか不思議と、少し前からコンビで冒険者をやっている。
冒険をする以上、神官も盗賊も不可欠な存在と知ってか、稼業を超えた友情がそうさせるのかは謎である。
「説教もいいがね。紙を返してもらったことだし、ちょうど今入った仕事の話、聞くかい?」
みゅーの説教を遮って、スタークは口を挟む。
「……聞く〜」
「マナ、あんた一応聞いてたのね」
「……うん」
のんきに同意したのは、ライガーと呼ばれる半獣半人の種族であるマナ。
つい先日、街の外でみゅーとシェリーに出会い、ノリと勢いで仲間となったグラップラーの少女である。
街の生活に慣れてないだけなのか、とことんマイペースなのか。
それはまさに、神のみぞ知るといったところであった。
「そんじゃま、依頼人を紹介するからこっち来い」
* * *
猟師の村リュード。
トアルから一日と離れていない森の中の小さな村で、不可思議な事件は起こっていた。
一月ほど前から、猟場や村の周辺に奇怪な怪物が出没するようになったという。
異常発達した牙や角を持つ猪や鹿。毛むくじゃらで血走った目をした猿。
そして、まるでゾンビのように蠢く、狼や鹿の死体。
「ゾンビだって。みゅー、あんたの出番の予感よ?」
依頼人の少女からゾンビの名前が出て、シェリーはみゅーの脇を小突いた。
「獣のゾンビですか……聞いたことがないですね」
「ゾンビかー……とこで、ゾンビってなに?」
「そういえば、どんなのがゾンビだっけ」
マナが首をかしげ、シェリーさえもそれに追従する。
どうやら、名前は知っていても詳細までは知らない様子である。
ため息をつきゾンビの解説をするみゅーを横目に、依頼人である少女は不安げな表情を浮かべた。
「……ファリス神官っていうから安心したけど、大丈夫かなぁ……」
いまひとつ垢抜けていない雰囲気と、くすんだ蜂蜜色の髪。
リュードの代表としてやってきたのは、意外にも若い少女とも呼べる狩人で、ユーリと名乗った。
彼女が村の相違で決定された報酬額を提示する。全額で2000ガメルだった。
拘束期間は1週間で、その間に原因を突き止めることができなければ、報酬は半額。
経費込みだが、村にいる間の滞在費は負担するという条件で、みゅーたちはこの依頼を受けることにした。
「じゃあ、よろしくお願いします。えっと……」
若干不安が残らないわけではないが、ユーリにとっては村の救世主になりうる少女たち。
「改めまして。ミューリア・アーテリーゼです。ファリスの神官戦士で、魔術の心得もあります。お気軽にみゅーとお呼びください」
ぺこりと丁寧に頭を下げるみゅー。
メイスを下げ、ソフトレザーに身を包んだ神官戦士。いささか脆弱な鎧は、古代語魔法を操るためである。小ぶりのスタッフがみゅーが魔術師である証明でもあった。
「あたしはシェリー、よろしく〜。仕事はドロ……いや、とびまわったり忍び込んだりそーいうのわりかし得意ですっ」
フランクに笑顔を浮かべるシェリー。
いつもの調子でぶっちゃけかけて、ユーリが都会ずれしていない村娘だと思い出して、慌てて言葉を濁す。
「マナですっ。ケンカできるよ〜」
そして、シェリー以上にぶっちゃけたマナ。
袖なしのジャケットと暗い色合いの硬革鎧。腰のベルトには鋼鉄製のクローを下げていた。文字通り、ケンカ番長のようないでたちだった。
「こちらこそ。ボクは向こうについてからも、森の中の案内をすることになってるから、しばらくの間よろしくお願いします」
自己紹介を済ませたあと、冒険者たちは手早く支度を済ませると、早々と現地へ向けて出発した。
詳しい話は歩きながらでもできるし、装備の買い足しなどの必要に駆られる可能性はあっても、それを可能にするお金がなかった。
情報収集にしても、今回の件を考えると、彼女たちには頼れる場所があまりなかった。
おそらくゾンビというからには、魔法が関与している可能性が高い。しかし、魔術師であるみゅーは他国出身である。トアルの賢者の学院には所属していないため、満足な情報を仕入れるのは難しいだろう。
神殿にしても、みゅーの所属するファリス神殿は、トアル国内ではお世辞にも布教率がよいとは言えない。
「よーするに、出たトコ勝負ってことでしょ」
「そういうことでもないんですけど……ユーリさん、事件の前後に何か変わったことはありませんでしたか?」
7月の日差しが照りつける街道をてっこてっこと歩きながら、みゅーがユーリに訪ねる。
「うーん……あ、そういえば学者さんたちが来てたなぁ。2日ほどいて、すぐに帰っちゃったけど」
しばらく考えていたユーリは、そんなことがあったのを思い出し、ぽんと手を叩く。
「学者ですか。トアルの、ですか?」
「うん。王都から来たとはいってたよ。そういわれてみると、学者さんたちが来たあとだったかなぁ、変なのが出始めたのは」
改めて言われてみると、どうもその前後からだと思い出してくる。
「学者が来るというと、学術調査でしょうか。村の近くに遺跡などありませんか?」
「村の近くにはないと思うけど……禁猟区のほうは、近づいちゃダメな決まりだからわからないや。もしかしたら、そっちにはあるのかも」
「禁猟区……?」
ユーリの口から出たただならぬ言葉に、ぴくりと反応するみゅー。
「狩っちゃいけませんっていうか、土地的に危険な場所だから近づくなって昔から言われてるところだよ。別に見張りがいるわけじゃないから入ることは出来るだろうけど、村の人なら誰も近づかないよ」
「ふーん……あ、マナ。卵と魚のサンドイッチ、交換しない?」
「おさかながいい〜v」
相槌を打ちながら、お弁当にと買っておいたサンドイッチをぱくつくシェリー。
具が気に入らないのかマナが食べていたのがおいしそうに見えたのか、トレードを要求していたりする。
(……本当に大丈夫なのかな)
あくまでのんきな二人に、思わず懐疑的な視線を向けてしまうユーリ。
そんな視線にも気づかず、お気楽な二人は笑顔でサンドイッチをかじり続ける。
「とすると、まずは生活範囲を押さえて、見つからなければ禁猟区を調べる……」
みゅーはそんな二人を気にも留めず、しきりにまじめな顔で作戦を考えている様子だ。
3人の中ではマナと並んで幼い外見をしているが、意外にしっかりもののようだ。
「ごちそうさま〜」
同じ幼い外見――というか実際に冒険者と呼ぶには幼いマナは、幸せそうな笑顔で最後のサンドイッチを口に放り込む。
そうしてしばらく街道を歩くうちに、マナの様子がおかしくなってきた。
「……っ」
びくっと一瞬震えたかと思うと、次第に歩調に今までの元気が感じられなくなってくる。
尻尾がぴーんと立ったかと思えば、逆にしなっと力なく垂れ下がる。
ぎゅるるる……
「……うう」
マナの下腹部から響く、重い腹音。
「……あ、あのっ」
「どうしたの? なんか顔色悪いけど」
頬を赤く染めて上ずった声を上げるマナに、ユーリが答える。
しかしそういうユーリの顔も、なぜか若干青白い。
「いや、どっちかっていうとアンタの顔色のがやばくない?」
「ボクは大丈夫、女の子の日なだけだから」
「……重いの?」
「かなり」
シェリーの気遣わしげな視線に、青白い顔に笑顔を浮かべるユーリ。
どうやら、いつものことらしい。
そんな二人の掛け合いに、言い出すタイミングを逃したのか、マナはもじもじとその場で太ももをこすり合わせる。
「うう……ちょ、ちょっと待ってて〜」
結局、それだけを告げるしかできなかった。しっかり言っておくべきなのだろうが、マナは言葉を濁したまま街道を外れて走っていく。
「ああ。なんだ。ほかにおしっこの子はいまのうちにいっときなさいよ。ユーリ、アンタはいいの?」
「大丈夫だよ。ちゃんと敷いてあるから」
「……しいて?」
シェリーの直球に、困り笑いを浮かべて軽く流すユーリ。
しかし、初めて耳にする不可思議な呪文を聞いたような顔で、みゅーが首をかしげた。
「あ、みゅーちゃんはもしかして入れる派? やっぱり都会の子は進んでるねー」
「入れる……? なんですか?」
冒険者をやってるくらいだから、来るものは来てるだろう。そう思っていたが、どうやら違ったようだ。
みゅーは外見通り、成長はかなり遅いようだった。
「はいはいいいわねおこちゃまは気楽でさー……あたし入れるの気持ち悪いんだけど、おざぶだと飛んだりはねたりするとずれちゃうからなー」
若干どうフォローしたもんかと固まっていたユーリだったが、ヤレヤレといわんばかりに肩をすくめたシェリーが、強引に話を流してしまう。
「……ずれる?」
やはり話についていけないみゅーは、帰ったらこのことを調べようと硬く心に誓うのだった。
* * *
一方そのころ、隊列を離れたマナはというと。
「うう〜〜っ」
茂みの中に駆け込むと、大急ぎでハーフパンツを脱ごうとする。
だが、慌てるあまり手元が狂って上手く脱げない。もともと我慢ができない体質なので、早くしなければもれてしまう。
その思いが、余計に手元を狂わせてしまっていた。
「……やっと脱げたっ」
落ち着く間もなく、マナはズボンとパンツにあいた尻尾穴からピンと立った尻尾を抜き取り、しゃがみこむ。
ぶりゅぶりゅぶりゅびちびちびちっ!!
ぶびゅびゅぼんぶりびゅりゅ〜〜〜〜っ!!
「あふぅっ……!!」
腰を下ろした次の瞬間、マナのお尻から大量の軟便が吐き出された。
尻尾が自然とピーンと天を指す様にそそり立つ。
ビチチチジュビビビッ!! バブブッ!!
ビジュジュジュブブビビィィ〜〜ッ!!
ブリュビビビビッ!! シュビブバァァァッ!!
ビブブブッ!! ばじゅびりゅりゅりゅ〜〜〜ぅっ!!
「んん〜〜っ」
お尻から吐き出されるそれは、爆発するかのようにはじけ飛びまくり、周囲に茶色を撒き散らしている。
これがもしトアル式便器だったならば、個室内の壁にまで茶色い飛沫は飛び火していただろう。
それくらい、勢いのある排便だ。
「にゃぁぁぁ……」
ブビビュルルルルッ!! ビチブブブッ!!
ビブジャアアアッ!!
ボリュブビビブゥゥジュバァァァッ!!
「あふぅ、にゃふっ……!!」
中腰で踏ん張る度にはじけ飛ぶ下痢便。
その勢いのせいか、はじけ飛ぶそれがマナのお尻をどんどんと汚していく。
そんなことにも気付かずマナは排便を続け、しばらくするとようやくその勢いが治まってきた。
ビブブッ……ぷじゅうううっ!!
びちちっ、ぶべっ、ぶりゅちゅぶっ……!!
「はぁぁぁ〜〜〜……」
単発で数度、残った便を吐き出した後、マナは大きな溜息をついた。
そして腰のポーチを漁ろうとして、その手が空を掴んだ。
「……ポーチ……? っ、紙っ!?」
そこでようやく、マナはすべての荷物をさっきの場所においてきたことを思い出した。
もちろん、紙を入れたポーチを向こうだ。
「……えーと、葉っぱ、葉っぱ」
だが、マナはそれ以上焦ることなく手ごろな葉っぱを捜し始めた。
人に育てられたとはいえ、そういうところで順応性が高いのだけはさすが獣人といったところだろうか。
「あったぁ」
柔らかさ、大きさ共に申し分ない葉っぱが見つかった。
マナはそれをちぎり、お尻を拭う。
「……はぅっ、ヌルった!?」
そして、お尻全体が自分が弾け飛ばせた便汁で汚れていることにようやく気付いた。
新しい葉っぱをちぎり、それらもきちんと拭っていく。
「……綺麗になったかな」
さすがに使い勝手のいい紙とは違い、若干時間はかかってしまったが、どうにか綺麗にすることは出来た。
マナは満足げに息を吐くと、パンツとズボンを穿き直し、葉っぱをその場に捨て、仲間たちに合流すべく道を引き返していった。
その場には、大量の茶色い泥溜まりと、周囲に飛び散る茶色の水玉模様が残されていた。
* * *
マナが食後の排便から戻ったあとの旅路は順調だった。
春の太陽が地平線へ沈んでいき、やがて顔を完全に隠すかどうかに差し迫ったころ、
「みんな、そろそろ村が見えてきたよ」
先導するユーリが、疲れを隠した声で前方を指差した。
道中、ユーリが幼いころにわずらった病気のせいで、同年代の女の子に比べて体力的に虚弱であることを雑談の中で教えてくれた。
それでも狩人をやっていけるだけの体力は身につけているものの、やはり現役で冒険者をやっていこうという3人と比べると、どうにも見劣りはするようだ。
「……見えないよ」
マナがくりくりした猫目をぱちくりさせて、ユーリが示す前方を凝視する。
「まぁ小さな村なのは認めるけれどね……ほら、木の間からちょろっと見えてるでしょ?」
そういわれてみると、確かに行く手には村を囲っているのだろう、柵が見える気がする。
そして、木々の合間にまばらに立つ家屋も見えないこともない。
目指すリュードは、目と鼻の先だった。
「ようこそおいでくださいました」
「やっ、どーもこちらこそ」
村について早々、ユーリの案内によって通されたのは、リュード唯一の酒場だった。
来客も少ない小さな村のため、この酒場が宿も兼用しているらしく、また同時に集会所のような役割も果たしているようだ。
冒険者がやってきたと知らせを受けやっていたリュードの村長は、腰の低い人物だった。村長だけでなく、多くの村人も詰め掛けている。
どうやら猟師が大半のようで、怪我をしているものも何人か見受けられた。
「ええと……お話はそちらのユーリから聞いていると思いますが」
村長は冒険者だとやってきた3人が、若い娘、しかもうち2名ほどが若すぎることに若干疑問を持った様子だったが、この際村を救ってくれるならと気にしないことにしたらしい。
回りくどい話はなしに、本題に入ってきた。
「ゾンビのような獣のことですね」
一行を代表してみゅーが口を開く。残りの2人はめいめいに頷いて追従している。
「ええ、わたしはゾンビというのがどのようなものか、いまいちわからないのですが、どうやらそれらしいです。それも、形容しがたい獣もです」
村長をはじめ、獣に遭遇した猟師たちの証言を聞いてみると、やはり事前に聞いていたものと同じだった。
ユーリがトアルに出向いている間に、事態は良くも悪くもなっていないようである。
死体が残っていれば情報源になるかも、と思い立ったものの、村人たちはそれらを気味悪がり、さっさと焼却処分してしまったらしい。
もっとも、ゾンビである以上、腐臭がひどくてそのまま放置しておくには、衛生面からも精神面からもよくないというのも納得だ。
「一応、獣なのね」
シェリーの言葉に、猟師たちが頷く。
身体の一部が異常発達していたり腐っていたりするものの、現れる獣はすべてもとの獣が判別できる程度のものだったらしい。
「全く歯が立たない相手、というわけではないのですね」
「ええ、何匹かは退治できましたが、ごらんの有様で」
みゅーの言葉に、肯定とも否定とも取れる返答をする村長。
大半はさほどひどい怪我には見えないが、一人だけ包帯を巻いた腕を吊っている少女がいた。
不意に少女とユーリの視線が合い、互いが気まずそうに視線をそらした。
「……どうかしたの?」
まじめな話が苦手なのか、村長とみゅーの話から目を離していたマナが、その様子に気づく。
「あは……な、なんでもないよ」
ユーリが苦笑を浮かべてはぐらかすと、少女のほうも口を開くことなく黙り込んでしまった。
「骨折はまだわたしの力じゃ治せませんね……」
「いえ、われわれの治療よりも、原因の究明をお願いいたします」
マーファ神官ばりの慈愛を持つみゅーが思わずつぶやいた言葉に、村長が慌てて口を挟む。
「ええ、それはもちろんです。仕事を円滑に進めるために、いくつか質問してもよろしいでしょうか?」
みゅーは件の獣が出没する時間、出没する地域を聞き出す。
どうやら昼夜問わず出没するらしく、猟場から村の近くまで、行動範囲は広いようだ。
「普通の動物がみんな異常な姿になった、ってわけじゃないんだよね? 普通のエモノはいままでどおり獲れてるんだよね?」
「ええ。全部が全部というわけではありません。現在でも、普通に狩りは続けられていますから。もっとも、怪我で仕事を休まざるを得ないものもいるのも事実ですが」
シェリーも確認するように、村長に尋ねる。
何か原因があって野生動物を変化させているのか、外からよくないものが持ち込まれたのか、そんなところだろうとあたりをつける。
特に、2日間ほど滞在していた学者が微妙に怪しい。
「そういえば、禁猟区があるって聞いたんだけど?」
「そうでした。危険というのは、地形的な意味なんですか? それとも、危険な生物がいるか、踏み入れない理由が?」
村の禁忌ではあるものの、今回の件を解明するためには仕方のないことと想定していたのだろう。
村長は嫌な顔をせず、禁猟区についても教えてくれた。
どうやら遥か以前、村長の祖父の祖父のそのまた祖父、村がこの地に出来たころからの言い伝えで、「危険な土地であるから近づいてはいけない」というものらしかった。
実際に足を踏み入れた村人はいないのではないだろうかというほど、この言い伝えは浸透しているという。
「まぁ先人が近づくなといっていますから、近づかないに越したことはないという感じです」
「ってことは、禁止されてる理由、誰も知らないの?」
マナが首をかしげると、詰め掛けた猟師たちの間から声が複数あがる。
「私は山のような熊がでると聞いているぞ」
「ワシは足が8本ある馬の神様が祭られていると。エリオス様の御使いだとか」
「いや、巨人じゃ。巨人がおるのじゃ」
「鋼の甲羅を持ったリクガメが住んでいるという話も聞くぞ」
どうにも信憑性に欠ける話が、出るわ出るわ。聞くまでもなく、各家庭で子供をしつける際、様々にアレンジされたものだと容易に想像が付く。
禁猟区に関しては、近づいたものはおろか、詳しく知るものもいないため、これ以上探るのは難しいようだ。
「あとは……そうですね。王都から来た学者さんについて、覚えていることはありますか?」
そう訪ねると、みゅーが持っているような杖は持っていなかったが、ローブを着ていたことを教えてくれた。
護衛らしき戦士が一人だけ付き従っていたらしい。
一度どこかへ出かけ、帰ってきたときには全身泥水まみれだったという。そして、がっかりした様子であるということも村長の印象に残っていた。
「魔術師ではなく、賢者かもしれませんね。杖以外の発動体という可能性もありますが」
「なんかのマホーソーチを作動させようとして失敗したってオチかもね。それで、不思議な獣があふれ出した」
「実験失敗の線は強そうですね。……それよりもシェリーさん、魔法装置を不思議な呪文のように言わないでください」
宿帳を調べてもらい判明した学者たちの名前は、聞いたこともないような名前だった。
手配されている凶悪犯でもなさそうだとわかっただけ、収穫といえば収穫ともいえなくはない。
「話をまとめると、森の中で何かの実験に失敗して異変が起きたというところでしょうか」
「または、禁猟区にある遺跡かなにかにアタックしたはいいけど、うまくいかずに異変が起きた」
「……それで異変に気づかずに帰っちゃったのかな?」
「まぁ、バックれたっていう可能性もあるけどね」
大体の予想を立てたところで、とりあえずの会合は終了の流れとなった。
「皆さん、ぜひとも、よろしくお願いします」
村長の深いお辞儀に誠意を持って答えるように、みゅーはファリスの印を胸元で切った。
話を終えると、夕食をいただいてからあてがわれた部屋に引き下がり、作戦会議へシフトする。
もっともその前に、おなかの弱いみゅーはトイレの確認を忘れない。
宿の裏に作られた粗末なトイレは、男女共用で汲み取りのトアル式便器だった。
たったひとつしかない個室トイレが、微妙にみゅーを不安にさせる。
(大丈夫……行列にならない限り、大丈夫)
心の中で言い聞かせながら部屋に戻ると、簡易でスプリングのまったく利かない硬いベッドに、シェリーとマナがダイブしていた。
シェリーは心地よさそうにゴロゴロしているが、マナに至ってはまったく反応がない。
「……マナさん?」
「……zzzzz」
「お? マナー?」
不審に思っておもむろに近づき、うつぶせに突っ伏したマナの体をごろんと転がしてみる。
黄金色の猫目が、糸のように細められていた。猫口から安らかな寝息と共によだれが一筋、白糸のように垂れている。
「あああああもう!! マナたんはかわいいなぁぁぁぁ!!」
その安らかな寝顔に、シェリーが感極まって悶えて、ぎゅうううっと抱きつく。
「はっ!? むにゅう……」
その刺激で目を覚ましたようだが、すぐに両目がとろんと落ちる。
「もう! こらから大切な作戦会議なんですからっ!」
みゅーの怒声がマナの脳天を揺さぶる。
「びくっ」
思わず身をすくめ、黒い猫耳と尻尾の毛がぶわっと逆立つ。
「とにかく本題です。ゾンビにしろ変異体にしろ、実物を見てみないことには始まりません。なので、夜も警備をかねて交代で見回りましょう」
「うーい。それが打倒なところね」
シェリーは特に依存がないようで、間延びした返事を返す。
だが、マナはいささか不満な様子だ。もっとも、口に出して異論を唱えるつもりはないようだ。
「昼は猟場を回ってみて、何も成果がなければ禁猟区に足を運んでみるといったところでしょうか」
当たり障りのない、堅実な作戦だった。
禍根を断つだけでなく、うろついているモンスターじみた獣の掃討も視野に入れているようだ。
「夜の見回りのシフトはそうですね……わたしとマナさん。シェリーさんとユーリさんでどうでしょう」
「……あのー」
そこでおずおずと挙手をするものが一人。
今しがた実にナチュラルにシフトに組み込まれた、ユーリであった。
「なんでボクもナチュラルに面子入りしてるの? ボクの分の布団まであるし……実家すぐそこなのに」
「案内役とはいえ、仲間も同じでしょ。もちろんですやーん」
シェリーが人懐っこい笑みを浮かべ、ユーリの肩に手を回す。
「村の中では結構戦えるようですし、出来ればお願いします」
「うん……まぁ、出来るだけのことは手伝うつもりだったけどさ」
当たり前のように部屋に連れ込まれ、車座になって座らされたユーリが頷く。
「作戦はそんなところですね」
みゅーのその言葉で、仕事用の雰囲気が幾分か緩んだ。
そうなると、年頃の娘特有の雰囲気が色濃く滲み出してくる。
「んじゃっ。ここからはスーパー乙女タイムね。ね、ね。ユーリとあの腕吊った子、どういう関係なの?」
シェリーは身を乗り出し、ユーリに詰め寄った。
どうやらあの2人の間の雰囲気に気付いていたのは、マナだけではなかったようだ。
「え、っと……リアちゃんは幼馴染だよ。例の獣に襲われて、腕を折ったんだ」
ユーリがわざわざ王都まで出向いて冒険者を雇いにいったのも、案内役を買って出たのも、幼馴染が怪我をさせられて黙っていることは出来なかったからだと本人は語った。
シェリーの敏感な乙女センサーは、それ以上の何かが2人の間にあったと勘ぐったが、それを突っ込むのはまだ早い気がしていた。
もうちょっと仲良くなってからでも遅くはあるまい。
と、そんな和気藹々としているのかしていないのかよくわからない雑談タイムも、やがて終焉のときが来る。
「……うう」
ぎゅるるるるる……
みゅーのおなかが、重低音を上げ始める。
だが、のっぴきならないのはみゅーだけではないようだ。
「……はっ」
ゴロゴロとベッドの上を転がっていたマナの尻尾がぴーんと天を突く。
食後30分以内には便意を催す消化のよすぎるマナも、便意を催してきたようだ。
だが、みゅーもマナも羞恥心が邪魔をして、なかなかトイレにいくタイミングをつかめない。
「……うう。で、でも限界です」
みゅーはふらふらと立ち上がり、トイレへ立とうとする。
ガツン!
「っあ!!」
だが、ふらつくあまり自分の荷物に蹴躓き、テーブルに強かにおなかを強打した。
腸内を蠢く汚物があふれ出しかねない激痛がおなかから脳天を突き抜けるが、どうにか気合でそれを堪える。
「ちょっとみゅー、大丈夫? っと……あたしちょっと失礼」
シェリーはそんなみゅーに気遣わしげな視線を送ったが、不意に立ち上がると流れるような仕草で部屋を出て行ってしまった。
「あっ……」
それを呆然と見送るマナとみゅー。
どうやら、便意を覚えていたのは2人だけではなく、シェリーも同じだったようだ。
2人ほどに羞恥心の強くないシェリーは、あっさりとトイレへ向かって先行してしまった。
「ま、マナもトイレ〜……」
それに後押しされたように、マナもそそくさと部屋を出る。
「え、あ……っ」
結局部屋には、おなかを打った衝撃にも耐え切った精神力を見せたみゅーが取り残された。
「みゅーちゃん? おなか大丈夫? もしかして……」
一人便意を感じていないユーリがみゅーと共に部屋に残り、みゅーを気遣う。
みゅーは無言で耐えているが、堪えているのはおなかをぶつけた痛みではないのがありありとわかる。
「い、今のうちに行っといた方がよくない?」
「………ううっ」
しかし、行きたくても行けないのが現状だった。
堪えるのに必死で、足が動かない。
そうしてみゅーは、その場に硬直したように立ち尽くすのだった。
「うー……いたた。生理中は便秘になってやーよねー。生理明けのこの瞬間がつらいわ」
シェリーはぼやきながらも、トイレに通じる扉を開き、宿の裏手に出て行く。
小ぢんまりとした小屋の扉を開くと、そこには汲み取り式で掃除をしても拭いきれない悪臭をこびりつかせた便器がひとつ、鎮座していた。
個室に滑り込んだシェリーは、後ろでに扉を閉めると安っぽい鍵をかける。
「おなかが張ってるわ……」
ぽんぽんとおなかをさすりながら、ワイン色のホットパンツを下着と一緒にずり下ろす。
衣装とは対照的に白いお尻をさらけ出し、便器を跨いで腰を下ろす。
「ん……ふぅう……っ」
めりっ……ぶりゅぼっ!!
力強く息むと、生理中にたっぷりと形成された黒い硬質便がめりめりと肛門を押し広げて顔を出す。
下腹部に力を込めると、肛門がすぼまり巨大な塊を押し出した。
「ひ、い、ひゃああああああああんっ!!」
ぶぼぼぼぼぼぼぼぼっ!! ぶじゅるびびいいぃっ!!
蓋の役割を果たしていた硬質便がなくなると、滝のような勢いで軟便が吐き出された。
狭い室内に爆音が響き渡り、薄い壁は防音の「ぼ」の字も果たせず、その音は外まで駄々漏れになる。
「うう……は、はやくぅー」
その音を耳にしたのか、扉の外から弱弱しい声が聞こえた。
「マナ? ちょっと待ってなさい、ボスは割りとあっさり片付いたわ」
いつも生理明けに悩ませてくれる便秘の硬質便は、思っていたよりあっさりと片付いた。
たまっていた軟便も、一度息んだだけでしばらくは気にならないくらいには排出された。
シェリーは手早く紙を手繰ると、粘つくお尻を拭いて紙を備え付けのくずかごに捨てる。
「まーだー……?」
扉を控えめに叩く音と、切羽詰ったマナの声。
「はいはいはいはい、今でるわよー!」
シェリーは通常の3倍のスピードで下着とホットパンツを履くと、慌てて外に出て内股をこすり合わせて便意に耐えるマナと個室を交代した。
そのロングブーツのかかとに、茶色い汚れがついてしまっていたことに気づいたのは、しばらく後である。
「うあああっ」
ばたんと勢いよく扉を閉め、マナは個室に駆け込んだ。
パンツごとスパッツを脱ぎ、しゃがみこむのと形を微妙に保ったままの軟便が吐き出されるのはほぼ同時だった。
ぶしゃっっぶびぶりゅぶびゅびゅりりぃぃ〜!!!
トイレ争奪戦が行われている最中、最悪の事態は室内で起こっていた。
「ね、ねぇみゅーちゃん? なんなら、ボクの家までつれてこうか? すぐそこだから」
「……っあああっ!!」
ユーリがぷるぷると震えるみゅーの肩に手を置いた瞬間、みゅーが絶叫した。
びちびちぶびりごぽじゅばっ!!
「わ……っ!?」
みゅーの下腹部から破裂音が響き渡り、続けてパンツの布地に汚物が阻まれたくぐもった音が響く。
ぶじゅごぽごぼぼぼっ!!
ぶぼおおおおっ、ぶじゅぶぼごごっ!!
「っあ、あ、ああっ!!」
見る見るうちに白い神官服のお尻の付近が、茶色く染まっていく。
あまりに大量にあふれ出したみゅーの下痢便は、瞬く間にパンツの許容量をオーバーし、べちゃべちゃとあふれ出して床に叩きつけられる。
「ふあ……まだおなかがゴロゴロいってるかも……って、みゅーアンタ!? ちょっと、ちょっと待ったぁぁぁ!!」
その折、がちゃりと部屋の扉が開きシェリーが戻ってくる。
さすさすとおなかをさすっていたシェリーの目が一瞬で点になり、数泊置いて慌てたようにみゅーに駆け寄る。
「と、とりあえずトイレに……って今はマナが……!」
「お、おトイレ……!!」
両目に涙を溜めたみゅーは、シェリーの言葉にはっとなって駆け出そうとした。
その瞬間、またしてもパンツからあふれた下痢便があたりに飛び散る。
「ちょ、待った待った! そっちじゃない!」
「はなしてくださいっ!!」
扉をくぐりだそうとするみゅーを無理やり止めて、その体を自分のオーバーコートでくるむシェリー。
「いやああああ!!」
だが錯乱状態に陥ったみゅーは、シェリーの気遣いにも奇声を上げてそれを振り払い、驚異的な素早さでシェリーの包囲網を抜いた。
びちゃびちゃとあたりを下痢便で汚しながら、ばたばたと廊下を駆け、階段を飛ぶような勢いで下りていく。
「そういえば……みゅーってばかなりのハイスペックなのよね……」
「……あ、あの。シェリーさん……」
シェリーがわれに返ると、部屋に残っていたユーリが理解を遥かに超える展開に、呆然と立ち尽くしていた。
「あー……。まぁ、片付け、しとこうか」
「……うん」
「……はぁ〜〜。すっきりぃ」
そんな事態になってるとは露知らず、マナはトイレですべてを出し終わり、人心地付いていた。
今度は葉っぱを使うこともなく、紙でお尻を丁寧に拭っていく。
がちゃがちゃがちゃ!! ばんばんばん!!
「ひゃあ!?」
何度もお尻をぬぐって完全に綺麗にしようと頑張っていたところに、突然けたたましくドアノブを捻る音と、扉を乱打する音が響いた。
びくりと飛び上がって驚くマナ。
「あ、あのっ!!か、替わってくださいっ、わたし、わたしっ……!!」
続けて、切羽詰ったみゅーの声。
ただ事ではなさそうなその声に、マナは慌ててパンツを引っ張り上げ、スパッツを履き直す。
尻尾穴から尻尾を抜き出している余裕すらなく、尻尾もそのままに押し込める。
「あ、空いたよぉ〜」
「―――っ……!!」
焦らせるあまりもたつく手で鍵を開け、個室の外に出ると風のような勢いで、代わりにみゅーが飛び込んだ。
すれ違いざまにマナが見たものは、茶色く染まったみゅーのお尻と、飛び散った茶色い飛沫だった。
「……あわわわ」
「あー、マナ。みゅーは?」
おもらしの現場に遭遇してしまったマナが狼狽していると、点々と残された汚れを拭ってきたのだろう、シェリーが紙の束を抱えてこちらに向かってきた。
ユーリがいないことから、彼女は部屋の後片付けを任されているのだろう。
「おしりが……おしりがぁ……」
「……さいですか」
要領を得ないマナの言葉からも、状況は十分に察することが出来た。
「きゃうっ!!」
ずるべたーん!! べじゃぶっ!!
「みゅー!?」
さらに、室内から響くみゅーの間抜けな悲鳴。そして、まるでしりもちをついたような痛々しい音と、水っぽいものがはじける音。
聞こえた音から想像したとおり、みゅーは脱ごうした下痢便まみれのパンツが足に絡まり、狭い個室内で転倒していた。
お尻をしたたかに打ちつけ、衝撃で漏れ出した下痢便が室内に弾け飛ぶ。
「みゅー?ホントに大丈夫ー?落ちたりしてないよねー!?」
「…みゅーお姉ちゃん大丈夫〜?」
扉の外から声をかけてみるが、満足な返事が返ってこない。
それどころか、
「う、あぁぁぁ……あぁぁぁぁっ」
などと悲鳴のような声が返ってくる。
その悲鳴を聞いたシェリーの行動は迅速だった。
愛用のシーフツールを取り出すと、ドアノブにピッキングツールをねじ込み、ものの5秒足らずで安っぽい錠を破ってみせる。
「みゅー? いいわね? 開けるわよ!!」
言うが早いが、扉をぶち開けるシェリー。
「う……うああ…………ああっ……」
室内では、片足を滑らせて汲み取り穴に落ちかけたみゅーが、なんとか落ちる寸前で耐え切っていた。
しかし床に打ち付けてしまったお尻からは、下痢便がとめどなくあふれだし続けている。ものすごい異物感がみゅーのお尻だけではなく、腰までもを包み込んでいた。
「みゅー……あんた……」
「あうううっ……み、みないで……みないでください…………みないでーーーーっ!!」
そこでようやくシェリーの侵入に気づき、狂ったように悲鳴を上げるみゅー。
ぶじゅごぽっ!
びちゅびちゅぶりゅぶりゅ!
ぶぴぶぴぶじゅぶじゅぶぽっびちびちびぃーーーーっ!!
へたり込んだみゅーのお尻から、汚らしい音とともに悪臭を生み出す元凶が吐き出される。
便器はまったく意味を成さず、トイレの床がどんどん下痢便に侵食されていく。
「……水、汲んでくるわ」
「あうあうあうー……!?」
惨状にうろたえるマナの首根っこを掴み、シェリーは扉を閉めてトイレから離れて水をくみにいく。
「ああ……うううっ……うあああっ…………」
みゅーは涙を湛えた両目でそれを見送り、他人の視線がなくなったことにすずめの涙ほどの安堵を覚えた。
だが、それも続いてやってくる腹痛と下痢便の波によって飲み込まれてしまう。
ぶじゅぶりゅりゅりゅりゅっ!!
ばぶびぃぃっ!! ぶりちゅりゅるるるっ!!
びちびちぶぷぴぶばぁぁぁ〜〜〜っ!!!!
永遠とも思えた災厄の瞬間もやがては終焉を迎える。
みゅーの体内から出るものも出なくなったころ、みゅーの口からは苦悶の呻きの変わりに、悲壮感あふれる鳴き声がこぼれだした。
「うわああああああああんっ!!」
もはやこれ以上汚れても一緒だといわんばかりに、下痢便にまみれた両手で顔を覆い隠し、号泣するみゅー。
室内にこもる悪臭。それを放つ根源が顔中にこすりつき、よりいっそうひどい悪臭が鼻を刺す。
吐き気を催すそのにおいが、自分がとんでもないことをしでかしてしまったことを強く自覚させる。
「…………わ……わたし……うぇぶっ……わたしは…………」
泣きじゃくりながら、こみ上げる吐き気を堪え、のど元までこみ上げてきたそれを無理やり飲み下し、震える手で胸元の聖印を探る。
茶色く汚れてしまったそれで聖印を握ることさえ躊躇う気持ちさえ生まれなかった。
「う……うぅぅっ…………ごめんなさいっ……ごめんなさいっ!!」
床を覆いつくさんばかりの下痢便と悪臭が支配する個室に、懺悔が静かに繰り返されていった。
深く後悔の海に沈んでいくみゅーの耳には、外から水と着替えを持ってきたと告げる声さえも届くことはなかった。
《 続く 》
* * *
ソードワールドPRPG。
グループSNEの代表作であるソードワールドRPGをスカトロチックに遊ぶためのローカルルールを設定し、愉快な仲間たちと毎週土曜日にゲームをやっております。
このソードワールドPRPGリプレイは、本来ならそのプレイ風景を他者に伝えるために、プレイログを編集してお届けする作品でした。
ですが、まぁいろいろと中の人の事情で、プレイログの編集よりもいっそのことノベル形式にしたほうがいいなぁ、と思い立ちまして、ノベルに書き起こしてみました。
するとまぁ、これが思った以上に大変だわwwww
大幅なカット、編集をするという心積もりで始めたはずなのに、思ったよりカットできていない現状。
結局、第1話からいきなり何編かに分けて提供する形になりました。
この先、この飽きっぽい著者の気力がどこまで続くかわかりませんが、いつもどおり気長〜〜〜〜〜に続きをお待ちください。
またリプレイをノベル化した理由は、新ルールにつじつまあわせする意味合いもあったりして、キャラクターやシナリオ、世界観など若干の変更がみられます。ご了承ください。
なお、キャラクターのデータは以下を参照してください。
キャラクターデータ
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